3Dプリンタを用いて国内初の建築許可を取得した建築物施工
長らく建設建築業界で問題となっていた人手不足を解消するため、2012年ごろより建設用3Dプリンタの開発が活発に行われてきました。
海外では建設用3Dプリンタを用いた住宅等の建築物の施工が進んでいますが、日本国内においては地震、台風などの自然災害から建築物を守るための建築基準法が存在し、建設用3Dプリンタを活用が未実証の課題となっていました。 以前の記事はこちら↓ ↓
しかし今回、日本で初めて建築確認申請取得の建築物が施工されたということで調べてみました。
✔3Dプリンタで建築物施工に国内初成功
(出典:Polyuse、MAT一級建築士事務)
建設用3Dプリンタを開発する株式会社Polyuseは、建築基準法に準拠する形で、株式会社MAT一級建築士事務所による設計を元に、施工を実施しました。
今回造形した形状はR形状を含む、12個の建築部材で成り立っており、組み立て施工する方式となっています。これまで建築確認申請が不要だった10平方メートル 以下のコンテナやユニットハウスなどではなく、実際に人が暮らすことを前提としたサニタリーやインテリアを置く面積で、17平方メートル 超の広さを実現しました。
各部材ともに内部含めて使用モルタル素材を充填して造形を行うことで密な状態を生み出し十分な強度を担保しています。強度試験等も複数回実施されており、強度は基準強度以上あるそうです。
造形においては高さ150cmまでの内部空間を充填した印刷で凡そ4~6時間程度必要であり、全部材の製造に約10日間程度、造形期間中に並行して基礎打ちをすることで効率的に施工、造形後の現地組み立ては2日間で完了し、その後屋根等々の組み付け、内装の仕上げなどを実施し、旧来同様の建屋を建造するのに2ヶ月強かかるところを約1ヶ月で施工することができたそうです。
✔3Dプリンター住宅のメリット&デメリット
✔メリット
・建築コストが安い・・・従来の建築方法と比べると数十分の一、数百分の一ほど、建築コストが抑えられます。米国NPO団体「New Story」では、1棟4,000ドル(約42万円)で建設可能だそうです。このNPOでは、ハイチ共和国などの国で、2,000棟以上の3Dプリンター住宅を建設しています。
・人手がかからない・・・建築業界は技術を持った人間が不足しており、人材の確保が大きな課題です。現場では3Dプリンターではできない作業を補助するための職人しか必要としません。
・建築スピードが速い・・・3Dプリンター住宅は建築期間が短いことが特徴です。建築期間24時間ほどで建てられた事例もあり、通常の住宅では不可能なスピードで住宅が建てられます。災害現場などの仮住まいとしての需要が期待できるでしょう。
・曲線の建築物を造れる・・・曲線のように形状が複雑な住宅でも対応可能で、狭い土地での建築やデザイン性が高い住宅の建築に活用できます。一般的な建築方法では職人の技術に頼る部分が多く、時間やコストがかかってしまいますが、3Dプリンター建築ではその心配もありません。
✔デメリット
・基礎工事に対応できない・・・日本の建築方法では、鉄筋を内部に入れて強度を上げる必要があります。しかし、現状3Dプリンターはコンクリートの造形は可能なものの、鉄筋を入れるなどの作業に対応していません。
日本は地震大国とも呼ばれており、地震に耐えられる強固な基礎が必要不可欠です。将来技術が進化することで鉄筋を入れられるようになる、または同等の強度に対応できる可能性はありますが、現状基礎工事はこれまでのやり方で対応することになります。
・住宅設備工事に対応できない・・・3Dプリンターは住宅の構造を作れるものの、住宅に欠かせない、電気やガス、給水・排水などの住宅設備はできません。これらの作業は壁に穴を開ける、配管や配線をするなど、時間と手間がかかる作業です。そのため、住宅設備工事には今後も人手が必要になるでしょう。大工職人の需要は下がる可能性がありますが、住宅設備工事ができる職人の需要は高まる可能性があります。
・日本の建築基準法に適合しない・・・3Dプリンター住宅の施工方法は、日本の建築基準法に対応しておらず、法律から観点から導入できません。コンクリートに使用できる素材や工事方法が定められているからです。3Dプリンターで使われる建材は特殊なモルタルなどで、建築基準法の既定にない素材です。そのため、3Dプリンターの導入は法制度が整わない限り、難しいでしょう。
✔まとめ
今回、日本で初めて建築許可を通過したことで、上記のデメリットがデメリットでなくなる可能性が出てきたわけです。
型枠を作り、そこにコンクリートを充填し、養生して硬化させるという従来型の構築方法とは全く異なる3Dプリンティング技術は、今までの建築の常識を覆す画期的な工法であり、コンクリート構造物の製造では高コスト化しやすい曲線形状などへの製造を容易にします。
また自由な形状は構造上不要な箇所を削ぎ落とし、必要最小限の材料を使用するような部材供給を可能にし、限りある資源をよりサステイナブルに利用する手法としても期待されています。
ロボット技術や情報技術が今後ますますの発展をしていくと思いますし、それらを組み合わせることで施工の省力化・自動化ががより進んでいくことでしょう。しかしながら、地震国である日本で建築物や橋梁などのインフラを作る際には、十分な耐震性、安全性、耐久性を満足する必要があるため、解決すべき課題はまだまだ多く、実用化に向けた取り組みが今後も続けられていくはずです。